新潟地方裁判所長岡支部 昭和43年(借チ)1号 決定
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〔決定理由〕一、本件申立の要旨は左のとおりである。
申立外原千代は相手方より別紙(一)記載の97.38平方メートル(29.46坪)の土地(以下本件土地という)のうち40.896平方メートルの部分(以下甲部分という。別紙図面参照)及び乙部分(別紙図面参照)のうち北側公道に至るまでの間の東側の通路の部分を賃借し、同借地上に別紙(二)記載の建物を所有していたが、申立人は、右建物を代金三二万四、〇〇〇円で競落して所有権を取得し、昭和四三年四月二五日右代金を支払つた。申立人は現在ガススタンドに勤務すると共に、そこの二階六畳を借り妻と二人で生活しており右競落建物には申立人夫婦が居住する予定であるところ、相手方は右本件土地とは別に肩書地に土地家屋を有しており、申立人が右土地を借受けても相手方が不利となるおそれはない。
そこで、申立人から相手方に対し右別紙(一)記載の建物の敷地である本件土地の甲部分及び乙部分の東側通路部分の賃借権の譲受けの承諾を求めたが、相手方はこれに応じない。よつて、申立人が右借地権を譲受けることを許可する旨の裁判を求める。
二、(一)まず本件土地の甲部分及び乙部分中通路部分につき賃借権が存在していたか否かについて検討するに、本事件における資料によれば次の事実が認められる。
(1) 本件土地の甲部分は新潟県長岡市山田町二丁目二番宅地97.38平方メートル(29.46坪)の本件土地の一部であつて、右本件土地はもと申立外辻内コトが所有していたが、いまから約五〇年前相手方の先代(養父)が右本件土地全部を右辻内より借受け、そのうちの北側道路寄りの約半分の乙部分に家を建て居住して来たが、右先代は昭和一六年頃死亡し、養子たる相手方が右本件土地全部の借地権を相続した。そして、相手方は、時々家を不在にすることもあつて、不動産の管理を養母の申立外米田トメに委ねていたが、昭和三二年六、七月頃、申立外原千代が、相手方及び右米田トメから本件土地の甲部分を借受けた。
(2) 右原千代は、右相手方の先代夫婦との間に血のつながりはなかつたが八歳の時から同夫婦に養育され、入籍はしなかつたけれども、右相手方の先代の実質上の養子のような関係にあつたことから、右米田トメの希望もあつて、同人の居住している裏側の空地である本件土地の甲部分を右原千代が建物有の目的で借り受けるに至つたもので同人はその地上に別紙(二)記載の建物を建築した。そして、右借地契約の内容は、建物の種類、構造並びに借地権の存続期間についてはいずれも別段の定めはなく、賃料は月一、〇〇〇円、権利金一万円で、右権利金の支払いは履行したが、賃料は右契約の半年位のちに月額三〇〇円に減額する旨変更された。そして、相手方は、昭和三九年四月頃、右本件土地全部を買受けその所有者になつたが、その頃相手方は右原千代に対し右借地の右賃料を免除した。
(3) ところで、賃貸借契約において、賃貸人が将来の賃料債権を放棄又は免除したとしても、賃貸借契約の性質は失われないと解すべきであるから、以上の各事実に徴するときは、賃貸人たる相手方と賃借人たる右申立外原千代との間には、依然前記認定の内容の本件土地の甲部分についての賃貸借契約が存在していたことが明らかである。
(4) そして、右本件土地の甲部分へ公道より出入りするためには本件土地の乙部分東側の空地部分を通路として使用するほかなかつたが、右原千代はそこを賃借はしなかつたけれども道路として使用し、相手方もそれを認めていた。
(二) 従つて、申立人は、本件土地上に存在し原千代所有の前記別紙(二)記載の建物を昭和四三年三月二五日代金三二万四、〇〇〇円で競落し、同年四月二五日その代金の支払いをなしたことが認められるから、右建物の敷地たる本件土地の甲部分に対する前記借地権を右原千代より承継したものであることが明らかである。
(三) そして、申立人は、現在ガススタンドに勤務して確実な収入を得ているし、人格面でも別に難点はなく、家族は妻と二人であり、別紙(二)記載の建物は自己の住居として使用するものであることが認められ、本件土地を申立人に賃貸しても相手方に不利となるおそれがないと解されるところ、他方相手方は本件宅地全部を従前の原千代との借地契約終了後は倉庫敷地として利用する意図があることがうかがわれるが、既に肩書地に一応の倉庫を所有していることもうかがわれるうえ、右原千代との従前の借地契約の残存期間はあと約一八年余あるのであつて(昭和三二年中頃より三〇年)、申立人と相手方相互間の右事情を比較するときは、なお申立人に対し本件土地の甲部分の賃借権譲受けの許可をすることが相当であると認められられる。
よつて本件申立はこれを認容すべきであると認められる。
三、そこで、次に当事者間の利益の衡平をはかるため必要な附随の裁判について検討するに、本事件においては財産上の給付と賃料の増額の点が考慮されるべきであると思われる。
まず財産上の給付につきみてみるに、当地においては土地賃借権譲渡の際に地主に対して財産上の給付のなされる慣行が存在するか否か明らかではないけれども、少くとも本事件においては、前認定のとおり、本件土地の甲部分の申立外原千代に対する賃貸は、相手方と右原千代間のいわば親族に準ずべき関係から特になされたもので、そのような関係から財産上の給付額も定められたものであることが否定できないのであるところ、今回本件土地を更に申立人に賃貸することになるものであること、及び別紙(一)記載の土地賃借権の譲受けに伴い、申立人は別紙(二)記載の建物の補修を既に施したことにより同建物は今後相当期間使用しうるものとなつたと認められること等を併せ考えると、当事者の利益の衡平を図るため、申立人より相手方に対し財産上の給付をする必要があると考えられるが、他方、申立人の右建物の競落価格は借地権を取得することを考慮して定めたものとうかがわれる等本件における一切の事情を併せ考えると、申立人より相手方に対する右財産上の給付額としては、鑑定委員会の指摘する本件土地の更地価格の約五%に相当する金四万五〇〇〇円(一〇〇〇円未満は切上げ)が相当であると認める。
次に、賃料につきみてみると、本件土地の位置、環境、地形等本件における一切の事情を総合して判断し、3.3平方メートル当り一ケ月七〇円が相当であると認める。
四、以上の次第であつて、申立人が相手方から別紙(一)記載の本件土地の甲部分の賃借権を譲受けることを許可し(なお本件土地の甲部分は、南側は川に接し東側及び西側は第三者の土地に接しており、公道に至るためには本件土地の乙部分中東側空地部分を通行するほかないけれども、前記のように前記原千代が同部分を賃借したとは認められない。然し、本裁判により、賃貸たる相手方が申立人の本件土地の甲部分の賃借権譲受けについての承諾を形成するものであるから、それに伴い賃貸人たる相手方が申立人に対し本件土地の甲部分への出入りのために本件土地の乙部分中の通行に必要な合理的範囲については右借地契約上の義務の履行として申立人の通行を耐忍する義務があるというべきである)、財産上の給付として申立人より相手方に対し金四万五、〇〇〇円の支払いをすることを命じ申立人が本件土地を競落し本件土地の賃借権を取得した日より本件土地の賃料として3.3平方メートル当り一ケ月金七〇円と定めるとともに、本件土地賃借権の存続期間を明確にするためにそれを本裁判確定の日の翌日から二〇年と定めることとする。
よつて、主文のとおり決定する。
(渋川満)
別紙
(一) 土地の表示
新潟県長岡市山田町二丁目二番
宅地 97.38平方メートル(29.46坪)(別紙図面参照)
のうち
40.896平方メートル
(別紙図面甲部分)
(二) 建物の表示
新潟県長岡市山田町二丁目二番地
家屋番号二番一
木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建 居宅 二七平方メートル